名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(ネ)4号 判決
控訴代理人は、原判決を取消す。被控訴人が昭和二十三年十二月十五日爲した七尾市字小島レ七番の一宅地五十四坪に関する七尾市西湊地区農地委員会の買收賣渡決定に対する訴願却下の裁決はこれを取消す。右西湊地区農地委員会が昭和二十四年四月二十四日前項買收賣渡決定中レノ七番ノ一宅地五十四坪をレノ七ノ一番地宅地四十四坪レノ七ノ四番地宅地五坪と訂正したのについて被控訴人が與えた承認はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とすとの判決を、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人に於て訴願の裁決は自作農創設特別措置法第七條第五項によれば同條第四項但書の期間満了後二十日以内に爲さねばならないと規定しあり、これによれば本件の場合は昭和二十三年三月二十九日迄に裁決を爲さねばならないに拘らず、これより遙に後れて爲された本件裁決は違法であると述べた外、当事者双方の事実上の陳述並に証拠関係は原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。
三、理 由
七尾市西湊地区農地委員会が昭和二十三年二月十七日控訴人所有の七尾市字小島レノ七番ノ一宅地五十四坪を訴外中村惣吉の申請に基き同訴外人の賃借地であると認定してこれを買收し、併わせてこれを同人に賣渡す決定を爲し控訴人がこれに対し異議を申立てたが却下されたので、被控訴人に対し訴願を爲したことは当事者間に爭なく、成立に爭のない乙第三乃至第五号証、同第十二号証並に本件訴状によると被控訴人は同年五月十三日右訴願却下の裁決を爲して右裁決書を控訴人に送付し、控訴人はこの裁決に対し同年九月十七日本訴を提起したのであるが、右裁決書には訴願人の表示を控訴人代表者の個人名義に誤記されていたので被控訴人は同年十二月十五日訴願人の表示を控訴人に訂正したことを認め得べく、この訂正書が同月十八日控訴人に送付せられたことは控訴人の爭わないところである。控訴人は裁決は右訂正の日に控訴人に対し爲されたのであると主張するけれども、控訴人は訂正前の裁決を自己に対する裁決としてこれに対し本訴を提起しているのであり、右訂正は当事者の表示の誤記を更正したに止まり、裁決は昭和二十三年二月十七日に爲されたものと解しなければならない。その後昭和二十四年四月十四日西湊地区農地委員会が前記決定中七尾市字小島レノ七番ノ一宅地五十四坪を同字レノ七ノ一番宅地四十四坪、レノ七ノ四番宅地五坪と訂正し前者を中村惣吉に、後者を加地三松に賣渡す旨の決定を爲し被控訴人がこれを承認したこと、控訴人は同年十一月二十四日請求の趣旨を拡張して右変更決定につき與えた被控訴人の承認の取消を求めるに至つたことは当事者間に爭のないところであり、成立に爭のない乙第十五、第十六号証に原審証人温井要吉(第一、二回)の証言によれば、右地区農地委員会は再調査の結果中村惣吉に本件宅地を一括して同人の使用権なき部分まで賣渡したのは違法であるとの控訴人の主張を是認し、遂に右の如く決定の変更を爲し被控訴人もこれを承認したものであることが明らかである。そこでかかる決定並に承認の変更が許されるかどうかを考えて見ると、自作農創設特別措置法による農地の改革は土地の所有関係に劃期的な大変動を生ずるものであるに拘らず、極めて短時日の間にこれが遂行を要請せられている結果、一時に多数の事件を処理する地区又は縣農地委員会に於てその総てにつき誤なきを保し難く、利害関係人に於てその誤を指摘して來た場合に農地委員会もその瑕疵を認めたときは自ら進んでその瑕疵ある決定を取消し又は変更することは農地改革事務を迅速に処理する上に於て極めて適切であるから、本件の如く未だ買收手続が確定しない間に右地区農地委員会が自らその瑕疵を認めてこれを変更し、被控訴人もその変更を相当と認めてこれを承認することはその有効に爲し得るところであつて、右変更の限度に於て昭和二十三年二月十七日の決定並にこれに対する被控訴人の承認並に裁決はその効力を失つたものと謂わねばならない。被控訴人は本訴は出訴期間経過後の不適法なものであると主張するが、本訴はその請求の趣旨の拡張によつて右変更の決定並に承認の取消をも併せて求めているのであるから被控訴人の本主張は採用できない。控訴人は西湊地区農地委員会が訴外中村惣吉の使用権なき部分まで一括して買收し、これを同人に賣渡す旨の決定を爲したのは違法であり從つて被控訴人の裁決も違法であると主張するが、前示の如く決定並に承認が変更せられた以上、変更の限度に於て被控訴人の裁決等も効力を失つたものであり、この点に関する瑕疵は既に除去せられたのであるから本主張は理由がない。次に控訴人は訴外中村惣吉の本件宅地に対する地上権は消滅し、本件は無権利者の申請に基く買收賣渡の決定であつて違法であると主張するが、右主張の如き地上権の登記がないのみならず前記証人温井要吉の証言によれば訴外中村惣吉及び加地三松はいずれも当時本件宅地に対し賃借権を有していたことが明らかであるから本主張もまた失当である。なお控訴人は被控訴人の爲した訴願に対する裁決は自創法第七條第五項の期間経過後に爲された違法のものであると主張するが、同條第五項の規定は訴願に対する裁決を迅速に爲すべきことを命じた訓示規定であると解すべく、右期間内に裁決の爲さるることはもとより望ましいところであるが、右期間後の裁決でももとより有効であつて、これがため右裁決を取消す程の瑕疵ありとは言い得ないのであるから本主張もまた排斥を免れない。しからば控訴人の請求はいずれも理由なく、これを棄却した原判決は結局相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用し主文の如く判決する。
(裁判官 斎藤省一郎 観田七郎 村上久治)
(目録省略)